電気自動車とハイブリッド車、それぞれのメリットとデメリット
おもに環境面への配慮からメインストリームになりつつあるBEV(電気自動車)とHEV(ハイブリッド車)ですが、それぞれに特長があり、そこにはメリットやデメリットも存在します。
ここではBEVとHEVの違いや特長について説明します。
自動車専門ライター 高田 林太郎
おもに環境面への配慮からメインストリームになりつつあるBEV(電気自動車)とHEV(ハイブリッド車)ですが、それぞれに特長があり、そこにはメリットやデメリットも存在します。
ここではBEVとHEVの違いや特長について説明します。
▼もくじ
BEV(電気自動車)というのは、バッテリーに充電した電気を使ってモーターを動かして走行する自動車のことです。じつは古くから存在していましたが、大きな意味で実用的になったのは最近のことになります。
BEVは自動車の歴史がはじまったころから存在していました。自動車というもの自体が一般に広まりつつあった1980年代後半は、蒸気機関や内燃機関を動力とした自動車と同じくらいBEVも存在していました。
しかし内燃機関が大幅に進化したことや、大量生産を実現し販売価格を大きく下げることに成功したフォード・モデルTの成功によって、BEVや蒸気機関搭載車は駆逐されていくことになりました。
日本では第二次世界大戦後、燃料の不足や工場の稼働状況が悪かったことから電気の供給に余裕があった、などの理由からBEVに注目が集まり、数車種のBEVが開発され、販売されていました。
よく知られているのは、日産自動車の前身会社のひとつである、東京電気自動車が開発した『たま号』電気自動車です。このたま号は日産自動車によって復元され、動態保存されています。
そのほか、過去に街中を走っていたトロリーバス(架線からパンタグラフで集電して電気モーターで走行する路線バス)も、電気自動車の一種です。しかしこれは、架線から外れると走行できないため自家用車として使うことはできません。
自家用車としての電気自動車は、バッテリーの進化こそがポイントとなっています。
では、BEVとはどんな車なのでしょうか。
基本としてBEVとは、バッテリーに溜めた電力を使ってモーターを動かすことで走行する車のことをいいます。電気自動車にはそのほかにも、ソーラーパネルを搭載し、そこで発生した電力を使ってモーターを動かすソーラーカーや、水素と酸素を反応させることで電力を生み出す燃料電池を搭載した燃料電池車もありますが、ここでは一般的なBEVについて説明します。
BEVは車体に搭載しているバッテリーを充電し、その電力でモーターを動かします。そのため、バッテリーが空になってしまうと走ることはできません。そのバッテリーを充電するためには電気が必要となりますが、充電スポットだけではなく設備を整えれば自宅でも充電できる、というのが大きな特長となります。内燃機関自動車のように、燃料を補給するためにガソリンスタンドへいかなくても、車を使っていないときは自宅で充電できる、というのがポイントです。
ハイブリッドという言葉は、異なるものを組み合わせる、という意味を持っています。現在一般的に使われているハイブリッド自動車は、内燃機関と電動機のふたつを使って走行できることからそう呼ばれていますが、より明確にするためにここではHEVといういいかたを使います。というのも、ハイブリッド車にはほかにも、ガソリンとLPGという2種類の燃料を使うことができる車などもあったりするからです。
ここで紹介するHEVには、いろいろな種類があります。まずはその成り立ちから見ていきましょう。
内燃機関と電気モーターを利用して走行するHEVは、古くから研究されていました。それを量産し市販したのは、トヨタのプリウスが世界初となっています。
初代のプリウスは1995年にプロトタイプが発表され、1997年12月に市販が開始されました。このプリウスのハイブリッドシステムは内燃機関と電気モーターを同時に使って走行することも、内燃機関で発電しながら電気モーターで走行もできるという、複雑なものです。その先進性は非常に優れていて、特許も数多く取得していたために他の自動車メーカーはその方式を真似することが事実上できませんでした。
しかしのちになってトヨタは、世界の環境問題を改善したい、という目的から特許の多くを公開しました。そのことによって多くの自動車メーカーがHEVの開発を進めることができるようになっています。
トヨタが開発したTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)は、発電用と駆動・回生ブレーキ用というふたつのモーターと発電機・走行動力として使える内燃機関を搭載し、シームレスに動力を切り替えることができるというもので、一般的に『ストロングハイブリッド』と呼ばれています。
しかしHEVにはそのほかにも、さまざまなものがあります。
たとえば、主動力は内燃機関でまかないつつ、発進時などに電気モーターの動力を使うことで燃費の改善をおこなう『パラレル方式』は、多くの車に採用されています。いわゆるマイルドハイブリッドと呼ばれているのも、これです。
また、内燃機関を発電機の動力としてのみ使い、バッテリーに充電した電力を使って電気モーターで走行する『シリーズ方式』は、古くは第二次世界大戦中のドイツの戦車、ポルシェ・ティーガーにも採用されていました。現代では日産のe-POWERがこの方式を採用しています。
自動車メーカーでは、こういったハイブリッドシステムに独自の工夫をこらすことで、より効率のいいシステムを構築しています。興味のある方は各自動車メーカーのWEBページで、それぞれの特長を調べてみてください。非常に興味深く楽しめると思います。
ではBEVのメリットとデメリットを見ていきましょう。
電気自動車のメリットではじめに挙げておきたいのは、走行中はCO2などの物質を排出しない、ということです。いわゆるゼロ・エミッションというのがこれです。
また、電気モーターを動力として走ることから走行ノイズは非常に小さく、車内環境がいい、というのもメリットとして挙げられます。
BEVのデメリットとして挙げられるのは、充電時間の長さです。お出かけした際に利用する充電スポットは、高電圧のものであれば充電時間は短くて済みますが、すでに使用中であれば待ち時間が発生しますし、低電圧の充電スポットでは30分程度の時間が必要となります。
また、搭載されているバッテリー容量にも関わりますが、充電後の走行距離が短い、という点にも注意が必要です。とくに暖房を利用する冬場はバッテリー消費が激しいため、残走行距離には注意が必要となります。
ただし、これらのポイントはバッテリーの進化によって解決できるものでもあります。現在注目されている半個体/全個体電池などが実用化されれば、デメリットではなくなる可能性があります。
そのほか最近注目されているのが、タイヤから出る粉塵問題です。ヨーロッパではタイヤの粉塵を抑制するという規制が強化されつつありますが、BEVは内燃機関車に比べるとバッテリーが重く、車両重量が重くなるため、タイヤから発生する粉塵の量が多くなる傾向にあります。これは今後タイヤメーカーと自動車メーカーの協力で解決していかなければならないところです。
HEVのメリットとデメリットも見ていきましょう。
HEVはこれまで使ってきた内燃機関車と同じ感覚で使える、というのがもっとも大きなメリットといえます。バッテリーの残量を気にすることなく走ることができ、燃料が減ってきたらガソリンスタンドで補給すれば、普通に走ることができます。
また、その燃料補給も燃費の良さから頻度が少なくなります。一度満タンにすれば1000km程度走行できるHEVもたくさんあるため、燃料代の節約という部分のメリットも大きくなります。同時に、減速時にそのエネルギーを使って発電する回生ブレーキが搭載されているため、物理的なブレーキへの負担が小さく、ブレーキパッドの減りが非常に少ない、というのもメリットです。
デメリットとして挙げられるのは、車両価格の高さです。同じモデルの内燃機関車とHEVを比較した場合、車両価格の差を燃料代で埋めようとすると、年間1万km走行する人の場合でも10年近くかかってしまう、ということもあります。
ただ、現在進行形でハイブリッド車はラインアップが増加していますので、価格差はどんどん縮まってきています。この先ハイブリッド車がメインストリームで内燃機関車はサブ、ということになった場合には、価格差はより小さくなっていくでしょう。
今回は電気自動車とハイブリッド車のメリットとデメリットについて説明しました。
電気自動車とハイブリッド車はどちらも、環境に配慮した車です。そのため補助金制度も充実していることから、現在は内燃機関車よりも買いやすくなっています。
環境面では、排出ガスを出さないという点からいえば電気自動車は有利ですが、現時点では製造時の環境負荷が比較的大きいという問題もあり、その点も含めて考えると、内燃機関を搭載しているハイブリッド車も環境負荷は小さいとはいえません。
また電気自動車は航続距離が短いという問題もありますが、自宅に充電設備があれば、お買い物や通勤に使うクルマとしては十分以上の使い勝手の良さがあり、トータルコストの小ささが有利になります。
ハイブリッド車は使い慣れた内燃機関車と同じ使い勝手の良さがありながら燃費がよく、やはりトータルコストの低減を実現できます。
それぞれに特長がありますので、ご自身の車の利用状況を分析した上で、よりメリットの大きいものを選ぶようにしてください。
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