車の情報誌「ニューモデルマガジンX」編集長監修
ファミリー層を中心に人気のクルマと言えば、現時点で思い浮かぶのはホンダ・フリードとトヨタ・シエンタの2台が最右翼だろう。5ナンバーサイズの比較的コンパクトなミニバンながら、3列シートを採用して最大7人が乗車できる。扱いやすく、コストパフォーマンスに優れているという特徴は、これだけで選ばれる大きな理由となるわけだ。
5ナンバーサイズで3列シート7人乗りのジャンルは、フリードの前身であるモビリオがパイオニア。一世代で終了したモビリオは、そのコンセプトを引き継いだフリードにバトンタッチした。フリードの大きな特徴は、3列シート7人乗り、扱いやすさ、コストパフォーマンスの高さに加え、スタイリッシュなデザインもあげられる。ファミリーカーながら、見た目がスポーティである点も人気のポイントと言えるだろう。
2024年6月に登場した3代目フリードのデザインも、かわいらしいファミリー向けコンパクトミニバンというよりは、無駄なラインや凹凸を省いたシンプルでシャープ。初代と2代目よりもよりスペース効率を高めたマッシブな印象ではあるが、単に肥大化したといった悪いイメージはなく、コンパクトな背高ワゴンの先駆けでモビリオの前身とも言えるキャパに通じる潔いクリーンで好感の持てるデザインに仕上がっている。
新型フリードのラインナップは、標準車のAIRとSUVテイストのCROSSTER(クロスター)の2本立て。クロスターはブラックアウトされたホイールアーチモールや少々ゴツいフロントバンパーで装飾され、マルチパーパスSUV的な印象が強い。ちなみにクロスターはホイールアーチモールが装着されて全幅が広がり、3ナンバーサイズとなっているが、全高はAIRと共通。SUVのように背が高く見えるのはデザインによる目の錯覚だ。 搭載されるパワーユニットは、118ps/14.5kg-mを発生する1.5L直列4気筒DOHC i-VTECガソリンエンジンと、106ps/13.0kg-mを発生する1.5L直列4気筒DOHCガソリンエンジンで発電した電気で123ps/25.8kg-mのモーターを駆動するe:HEVの2種類を設定。
e:HEVのエンジンは先代のハイブリッドモデルに対して燃焼を高速化し、フリクションを低減することで最大熱効率を40%以上に引き上げて走りと燃費をより高い次元で両立させている。
ガソリン車のエンジンは直噴からポート噴射式に変更。また、アイドリングストップ機構が廃止された。これは扱いやすさと実用性を重視した結果だという。
ガソリン車がCVT、e:HEVは電気式CVT。サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット式。リアはFF仕様が車軸式、4WD仕様はド・デオン式だ。
安全面では先進の安全運転支援システム「Honda SENSING」を全タイプに標準装備。フロントワイドビューカメラと前後8つのソナーセンサーが用いられ、さらなる安心・安全を追求している。
プラットフォームは先代から流用されてホイールベースは2740mmのまま変わっていないが、全長は45mm拡大された。また、2列目シートのレッグスペースは30mm広がって快適性が向上。1列目と2列目の各シートは肩口部分とヘッドレストの形状が見直され、ウォークスルーの行いやすさと見晴らしの良さが改善された。
前席には骨盤から腰椎までの体圧を面で受け止めるボディスタビライジング・シートを新採用。ワンクラス上のサイズに仕上がっており、長時間ドライブでも疲れを感じにくいだろう。
運転席に座ってみると、Aピラーの根元が三角窓で分かれていたのを一本化、斜め前方の視界が広がって横方向の目視が行いやすくなった。ダッシュボード上にあったメーターパネルは下方に移されて前方視界も広がった。
また、エントリーグレードを除く全車に標準装備されている前席シートヒーターは冷間時に空調のAUTOスイッチと連動して自動的に作動し、協調制御でいち早く体を温めてくれる。これは嬉しい親切な装備だ。
2列目にはクラス唯一のキャプテンシートとオーソドックスなベンチシートの2種類が設定されており、2列シート5人乗り(クロスターのみ)、3列シート6人乗り、同7人乗り(AIRのみ)をラインナップ。キャプテンシートとベンチシートを乗り比べたところ、キャプテンシートのほうがサポート感と快適性は高いと感じた。ベンチシートは柔らかさが気になり、座った時の沈み込み量がキャプテンシートよりも多くてヒザの浮く姿勢になるため、長時間ドライブで疲れを感じやすいかもしれない。ちなみに、フロアに対してヒップポイントが低めに設定されているのは子供や小柄な女性、高齢者が座った時に足が浮いてしまうのを防ぐためだという。
その2列目シートは36cmのスライドが可能で、ヒザまわりの空間は7~43cmに変えられる。2列目のヒザまわりを15~25cm程度に調整すれば3列目シートのヒザまわりも十分なスペースを確保できる。3列使用時の荷室長は30cm。荷室幅は94cmでやや狭い。
3列目シートは座り心地とサイズが重視されて床下収納式ではなく、引き続き左右はね上げ式に設計されている。これはフリード購入者の多くが3列目シートにおける居心地の良さを重視するためで、サイズも比較的たっぷりとしている。
その他、インテリアではアッパーボックスが運転席側から助手席側に移され、センターテーブルが廃止されて格納式カップホルダーとロアトレイ&ポケットに変わった。前席用USB-Aポートが1個のみにとどまっている点がちょっと気になる。
新型フリードの大きな魅力として話題を呼んでいるのがハイブリッド機構の進化だ。ホンダ車の中で最後まで使われていた1モーター式のi-DCDに代わって2モーター式のe:HEVが用いられ、電動車ならではのテイストが大幅に高まった。このシステムは日常域ではモーターで走ってBEVのような顔を見せるが、高速域ではクラッチが締結してエンジン駆動に変わる。先代HEVには7速DCTが使われていてエンジン始動時や変速時のショックとノイズが否めなかったが、今回のモデルチェンジで電気式CVTに変わってスムーズさが増した。一方で強い加速時にはエンジン回転数が制御され、有段ATのような走行フィールを味わうことができる。加速時のエンジン音は上手く抑えられていて試乗中に気になることはなかった。なお、HEVに採用されてきた電子シフトは廃止され、ガソリン車と同じオーソドックスなATセレクトレバーに変更。他車から乗り換えても違和感なく使える点は、一般ユーザーには嬉しい変更点だろう。ホールド機能を有する電動パーキングブレーキは全車に標準装備されている。
参考までにフリードe:HEV FF仕様で、高速道路55%、一般道45%のトータル337.1kmを走行した場合の燃費は、車載燃費計上で市街地燃費21.9km/L、総合で20.8km/L。満タン法による実燃費は20.3km/Lで、燃費計との誤差は小さかった。カタログのWLTCモード燃費25.4km/Lに対する達成率は80%。燃料タンク容量は42Lなので、満タン法の計測値から計算すれば一度の満タン給油で852kmほど走れる計算だ。
試乗したフリードe:HEV AIR EX/6人乗りFF仕様の価格は304万7000円、7人乗りは309万1000円。ベーシックなe:HEV AIR/6人乗りは285万7800円。また、e:HEV AIR EX/6人乗り4WD仕様は327万8000円。ガソリン車は250万8000円からで、各グレードともe:HEVとの価格差は35万円ほど。予算的に無理がないのであれば、e:HEVがオススメと言えそうだ。
しんりょうみつぐ 1959年3月20日生まれ。関西大学社会学部マスコミ(現メディア)専攻卒業後、自動車業界誌やJAF等を経て、「ニューモデルマガジンX」月刊化創刊メンバー。35年目に入った。5年目から編集長。その後2度更迭され2度編集長に復帰、現在に至る。自動車業界ウォッチャーとして42年だが、本人は「少々長くやり過ぎたかも」と自嘲気味だ。徹底した現場主義で、自動車行政はもとより自動車開発、生産から販売まで守備範囲は広い。最近は業際感覚で先進技術を取材。マガジンX(ムックハウス)を2011年にMBOした。
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