車の情報誌「ニューモデルマガジンX」編集長監修
スズキの小型ハッチバックであるスイフトは日本のみならず、アジアやヨーロッパでも販売されている世界戦略車だ。初代は、同じくスズキの小型車だったカルタスの生産が終了した翌年の2000年に登場した。ただ、この初代はワゴンRの登録車版として開発されたワゴンRプラスのように、当時販売されていたKeiの拡幅版のような位置づけのクルマで、特徴は値段が安いという点に尽きた。
そのスイフトが海外市場も視野に入れて本格的に開発されたのは、2004年に登場した2代目からだ。このモデルはシンプルな構造ながらも基本的なクルマの機能をしっかりと作り込むことで高い評価を得た。以降、スイフトはその基本コンセプトを継承。参考までに、2代目のグローバル仕様を起点にカウントすると、累計販売台数は900万台を突破しており、スズキ・ブランドを牽引する大切なモデルへと成長した。
そのスイフトが2023年12月のフルモデルチェンジで一新された。「エネルギッシュかつ軽やか。日常の移動を遊びに変える洗練されたスマートコンパクト」をコンセプトに、歴代モデルで培ってきたデザインや走行性能に加え、安全装備と利便性の高い装備も充実させたことで「クルマと日常を愉しめる」という新たな価値が加わり、進化した。
最大の特徴は、新開発のガソリンエンジンを搭載した点だろう。多くのメーカーが電動化に向けて邁進している中、新しいガソリンエンジンが開発されたことは、とても興味深い。Z12E型と呼ばれるエンジンは排気量こそ1.2Lのまま変わっていないが、4気筒から3気筒へとシリンダー数を削減。細部を煮詰めて燃費性能を追及した高効率エンジンである点が特徴だ。
これに合わせて高効率CVTを新採用。トルクコンバーターには先代より低剛性化したダンパーを採用し、エンジンからの回転変動を効果的に吸収することで高い静粛性と燃費を実現。また、本体を先代のCVTより1.9kg軽量し、やはり燃費改善に貢献している。
先代スイフト同様、モーター機能付き発電機のISGと専用リチウムイオンバッテリーを組み合わせたマイルドハイブリッドシステムを採用。先代に対して高い発電効率を実現し、減速時の回生エネルギー量が向上している。また、同システムをスズキの国内販売車で初めて5速MT車にも搭載。その結果、マイルドハイブリッドのMXグレード2WD・5MT仕様はWLTCモード燃費値で25.4km/Lを達成している。同グレードの2WD・CVT仕様も24.5km/Lという優れた燃費値を表示している。
エンジンのラインナップは1.2Lガソリンのみだが、マイルドハイブリッド無しのXGグレードも用意されており、こちらのWLTCモード燃費値は2WD・CVT仕様が23.4km/L、4WD・CVT仕様が22.0km/Lで燃費は若干落ちる。
エクステリアは引き締まった塊感のあるイメージを継承しつつ、外観ではボンネットフード開口線からボディ側面へと続くキャラクターライン、全ピラーのブラックアウト処理によるフローティング・ルーフを採用し、スポーティで安定感ある佇まいを表現。新しいけれど、ひと目でスイフトとわかるデザインに仕上がっている。
リアドアのハンドルがピラーからドアパネルに戻されて使い勝手が向上した点も見逃せない。また、空力特性を高める狙いで前輪スカートが起用され、サイドシルとハッチゲートにはスポイラーが装着されている。これらにより、先代より空気抵抗を約4.6%低減し、コンパクトカーでクラストップレベルの空力性能を実現。ちなみに車体色は新色のフロンティアブルーパールメタリックとクールイエローメタリックを含む全9色で、ツートーンを含めると13パターンのラインナップとなっている。
ボディへの高張力鋼板の使用範囲拡大や構造用接着剤の採用によって剛性を高めたことで優れた操安性を身につけている。
インテリアは質実剛健な印象からなかなか抜け出せなかったスズキが一歩ブレイクスルーしたことを感じさせるデザインに仕上がっている。とくに注目したいのはインパネからドアトリムへと続くライトグレーのガーニッシュで、乗員を包み込むコックピット感の演出にひと役買っている。3D紋様が刻まれていて遊びゴコロを感じさせる仕立てもユニークだ。
最新のクルマでは必需品ともいえる安全装備は、ミリ波レーダーと単眼カメラを組み合せたデュアルセンサーブレーキサポートIIを採用。
また、電動パーキングブレーキが採用され、停止保持機能が加わったアダプティブクルーズコントロール[全車速追従機能・停止保持機能付]やブレーキホールド、車線維持支援機能、アダプティブハイビームシステムなどが日常運転の負担軽減に貢献。
さらに、ドライバーの表情を認識し、眠気や脇見をカメラで検知してドライバーに注意を促すドライバーモニタリングシステムをスズキとして初採用している。その結果、経済産業省や国土交通省などが普及を推進する「サポカーSワイド」、国土交通省による「ペダル踏み間違い急発進抑制装置(PMPD)認定車」に該当している。
実際に2WDマイルドハイブリットのCVT仕様を走らせてみると発進加速は快活でモタツキもなく、スピードに乗ることができて交通の流れをリードすることさえ可能だ。まさに開発キーワードのエネルギッシュに見合った走りを体感できる。定速走行時は燃費を向上させる目的でエンジン回転数が抑えられ、3気筒ユニット搭載を忘れさせるほど静かだ。ただ、その状態から中間加速するにはCVTのギヤ比が変わってから車速が上がるまでにワンテンポを要する印象が否めず、ハイブリッド機構を生かしてモーターが積極的にアシストしてくれたら、いっそうコンセプトに忠実なのでは?と感じた。また、エンジン始動直後、まだ冷えている状態でアイドリングストップが作動しない状態でのエンジン振動が少々気になった。エンジンが温まってアイドリングストップが作動すれば気にならない話ではあるが、もう少し振動を抑えてほしいところ。
「しなやかさが増した」(開発関係者談)というサスペンションは爽快なハンドリングの実現に貢献している。バンプストッパー(緩衝材)を長くし、後輪サスペンションはストローク量を増やして小さな衝撃による突き上げを減らしたとのことだが、街中で試乗した限り、動きに渋さが残っていてガツンと衝撃を感じる場面が何度かあった。不快というレベルではないが、もう少しマイルドでもいいはず。ガツンと来るショックはタイヤ空気圧に左右されるようで、タイヤが温まって空気圧が上がってくると、かなりショックを感じる。暑い季節に乗り心地を重視したいのであれば、マメに空気圧を管理したほうが良さそうだ。
参考までに、1名乗車、一般路走行中心、エアコン温度24度設定で制限速度に準じて178kmほど走行した平均燃費は、満タン法で約24.6km/Lだった。これはWLTCモード燃費値とほぼ同値だ。燃料タンク容量は37Lなので、満タン法の計測値から計算すれば、一度の満タン給油で910kmほど走れる計算になる。
しんりょうみつぐ 1959年3月20日生まれ。関西大学社会学部マスコミ(現メディア)専攻卒業後、自動車業界誌やJAF等を経て、「ニューモデルマガジンX」月刊化創刊メンバー。35年目に入った。5年目から編集長。その後2度更迭され2度編集長に復帰、現在に至る。自動車業界ウォッチャーとして42年だが、本人は「少々長くやり過ぎたかも」と自嘲気味だ。徹底した現場主義で、自動車行政はもとより自動車開発、生産から販売まで守備範囲は広い。最近は業際感覚で先進技術を取材。マガジンX(ムックハウス)を2011年にMBOした。
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