車の情報誌「ニューモデルマガジンX」編集長監修
ダイハツ・タフトは軽自動車のクロスオーバーSUVだ。タフトと聞いて、新しい名前だと感じるのは若い世代。お、懐かしい名前だなと感じるのはある程度の年齢の方、あるいはよほどのクルマ好きだろう。初代のタフトは1974年登場で、1,000ccガソリン、2,500ccのディーゼルを搭載した本格的なパートタイム4WD小型オフロードカーだった。1984年に2代目となった時に名前をラガーに変更したため、2020年に軽自動車として登場した新生タフトは36年ぶりの名称復活ということになる。
エンジンは、660ccの自然吸気とターボの2種類を設定。両エンジン搭載車ともにGとXの2つのグレードを設定。
それぞれのグレードにFFとフルタイム4WDを用意している。トランスミッションは全車CVT。サスペンションは前がマクファーソンストラット。後はFFがトーションビーム式コイル、4WDが3リンクコイルという仕様だ。
ボディデザインは、スクエアを基調としたシンプルなもの。ドアの厚さにたいして窓が比較的小さめのチョップドトップ的なデザインや、リアバンパーの両サイドを斜めに大きくカットしてリアタイヤが堂々と見えるようにしているなど、タフなイメージをうまく作り出している。
165/65R15という軽自動車のクロスオーバーSUVとしては大径のタイヤを装着して、最低値上高を190mmと高めにしている点もそう見えるポイントだろう。
カタログでは『気分前進。わくわくSUV。』とうたっているが、全車に装備されているスーパーUV&IRカット機能/シェード付スカイフィールトップは、開放感をもたらすだけでなく頭上の見晴らしの良い視界にも貢献。信号の直前で停止すると、ルーフ前端位置が着座位置より前気味のために信号が見えなくなるケースがあるのだが、スカイフィールトップ越しに信号を確認することができるのだ。
全高が1,630mmあるため、車内空間は見た目より結構ゆったりしている。また、ウインドウ形状から想像するような閉鎖感もない。迷彩柄のシートがアウトドア感を演出しており、G以上のグレードにはオレンジの加飾やステッチで遊び心をプラス。
ただし、前席にはアームレストに収納ボックスを装備するなど工夫があるのに対して、後席シートはスライド機構がなく、シートバックが前倒するだけのシンプルな構造。それでも着座感や居住性でとくに不満はない。
この室内レイアウトデザインは、じつはタフトの売りでもある。ダイハツでは、「バックパック・スタイル」と言っているが、気軽に後部にレジャー用品を積んでドライブに出かけよう、ということらしい。キャビン後ろ半分をフレキシブル・スペースと称し、リアシートを前倒しするだけでフラットな荷室が作り出させる設計なのだ。ラゲッジスペースは、シートバック背面を含め、水拭き可能な素材が使われている。また、手前(ハッチゲート寄り)にはアンダーボックスが備わっていて床面ボードを立てればスーツケースなど背の高い荷物も積み込めるようになっている。
逆にキャビン前半分はクルー・スペースと名づけられており、頭上に広がるスカイフィールトップと呼ばれるガラストップが最大の魅力。しかも、Aピラーが立っていてガラスルーフが前方まで伸びているため、真上を向かなくても十分に開放感が体感できる。これはオープンカーよりオープンに感じられる。しかも、雨天でも濡れることなく開放感を感じることができるのだ。もちろん、夜間には星空やビル街のネオンも楽しめるのが魅力的で、これだけでも欲しくなる人はいるに違いない。
インパネまわりでは、前席2名乗車を前提に作られていることもあって、装備類はしっかりしている。エクステリア同様に武骨なイメージでデザインされた直線基調のインテリアは好感が持てるもの。視界も良く、開放感に溢れている。
助手席の前に大型のインパネトレイがあり、センターコンソールにも運転手のスマホを置くのに十分なトレイが備わっているので、収納スペースとしては必要最低限でも、とくに不満を感じることはない。
ディスプレイはダイハツコネクトやスマホ連携に対応した純正ディスプレイオーディオのほかにも、ディーラーオプションで9インチメモリーナビなどが選択できる。
タフトは、タントと同じ軽量・高剛性のDNGAプラットフォームを採用。従来品と比べて曲げ剛性は7%、ねじり剛性は13%高まっているという。空転した車輪に制動力をかけるグリップサポート機能は全車に標準装備。電動パーキングブレーキをダイハツ初で全車に標準装備したことでオートブレーキホールドや、全車速追従機能つきACC(Gターボ標準、Gはオプション)を実現している。ブレーキホールド機構付き電動パーキングブレーキは、信号待ちなどでブレーキペダルを踏み続けなくても停車状態が保持されて便利だ。
もちろんアイドリング・ストップ機構との両立も図られているので、ブレーキペダルから足を離してもストップランプは点灯したままでエンジンは再始動しない。再発進するにはアクセルペダルを軽く踏めばスターターモーターで再始動する。再始動時にはクランキング音が必ずするため、渋滞路などではちょっと耳についた。
搭載するエンジンは660ccガソリンで、自然吸気仕様は52ps/6.1kg-mを発生する直列3気筒DOHCエンジンのKF型。ターボ仕様は、64ps/10.2kg-mを発生する直列3気筒DOHCインタークーラーターボエンジンのFK型。トランスミッションはFF、4WD全車ロックアップ機構付きトルコンを組み合わせたCVTだ。
最上級のGターボFFに試乗したところ、パワフルという感じではないが、ターボ車にはD-CVTを採用していて滑らかな加速が得られる設定で、アクセルペダルを踏むと元気に走る印象。どちらかと言えば、気分よく走りたくなる設定だ。乗り心地はちょっと硬めだが、不快に思うほどではない。高速走行や強風の雨天時でも不安感はほとんど感じられなかった。外観から受けるイメージのように、頼もしい走りを味わえた。
参考までに燃費は、1名乗車、一般路走行、エアコン温度24度設定。ノーマルモードで普通に走行した状態で158kmほど走行した平均燃費は、満タン法で20.4km/lだった。これは、WLTCモード燃費値20.2km/l(2022年モデルのテスト車。同グレード現行モデルのWLTCモード燃費値は21.3km/l)の約101%と優れた数値だ。なお、車載の燃費計は19.7km/lを表示していた。燃料タンク容量は30lなので、満タン法の計測値から計算すれば、一度の満タン給油で612kmほど走れる計算だ。ターボ仕様なのでもっと悪い燃費値を予想していたが、意外にいい数値を得られたのには感心した。しかも、燃費計測をした時は6割近くが大雨だった。ウェット路面は燃費を悪化させる要因だ。つまり、雨天でなければ、タフトはもう少し良い燃費値を得られた可能性がある。
新型タフトは、軽自動車という枠の中で、とてもよく考えて作られたクロスオーバーSUVに感じられた。エクステリアデザインはもちろん、車内の使い勝手や装備など、生活感をあまり感じさせない、ちょっと違った個性派の軽自動車を求めている人にはピッタリの仕上がりだ。走りや燃費なども含めバランスよく作られている印象だ。万人受けは難しいかもしれないが、マニア受けするクルマと言えるだろう。
しんりょうみつぐ 1959年3月20日生まれ。関西大学社会学部マスコミ(現メディア)専攻卒業後、自動車業界誌やJAF等を経て、「ニューモデルマガジンX」月刊化創刊メンバー。35年目に入った。5年目から編集長。その後2度更迭され2度編集長に復帰、現在に至る。自動車業界ウォッチャーとして42年だが、本人は「少々長くやり過ぎたかも」と自嘲気味だ。徹底した現場主義で、自動車行政はもとより自動車開発、生産から販売まで守備範囲は広い。最近は業際感覚で先進技術を取材。マガジンX(ムックハウス)を2011年にMBOした。
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