スペーシアは新採用の快適装備と定番のマイルドハイブリッド機構がポイント

車の情報誌「ニューモデルマガジンX」編集長監修

この記事の監修者

月間ニューモデルマガジンX編集部
代表取締役社長兼編集長

神領　貢

初代スペーシアはパレット後継車として2013年3月に発売された。その後、2017年12月にモデルチェンジが行われて2代目に生まれ変わり、最新の3代目は2023年11月9日に発表された。

デザインはスペーシアならではのワクワク感を継承し、いっそう楽しさを感じられる装いに進化した。外観は頑丈な大容量コンテナをモチーフにデザインされ、ボディ側面にはビード形状と角が面取りされた処理によって頼りがいのある雰囲気が演出されている。ボディ上下を分割するキャラクターライン、ボディ同色に変更されたリアクォーターピラーによって丈夫さを表現。

LEDヘッドランプが新採用された標準車には柔らかさ＆親しみやすさを感じさせるミモザイエローパールメタリック、使い込んだ革製品に見られる深みを感じさせるトーニーブラウンメタリックを新色としてラインナップ。担当したデザイナーはミモザイエローパールメタリックについて「日常でも心地よく使える彩度を抑えた色で、静かなワクワクを感じてもらいたい」と話す。また、ツートーン仕様で組み合わされるルーフ色は強いコントラストを抑えるべく、ホワイトからソフトベージュに変更された。

カスタムには大型フロントグリルと前後メッキガーニッシュが採用されて上質感や存在感が表現されている。フルLEDヘッドランプと一体化されたターンシグナルには流れて見えるシーケンシャルタイプを起用。さらに、上級のハイブリッドXSには15インチの切削アルミホイールが165/55R15タイヤとともに備わっている。

内装ではインパネとドアトリム上部を立体的に造形することで充実感や広さを演出。標準車ではマット仕上げのカフェラテ色が配されて居心地の良さがもたらされている。

シート表皮は「グレージュ色に仕立ててモダンな印象を狙った」との説明どおり、乗る人を選ばない点が嬉しい。赤や緑の差し色が水平方向に織り込まれており、平板ではなく表皮に奥行き感を感じられて質感の高さが伝わってくる。

カスタムはブラック基調ながら、セミマット仕上げのボルドー色と艶やかなピアノブラックが随所に用いられてエレガントな印象に仕上がっている。

ライバル車を見るとシートの合皮面積を増やす傾向にあるが、カスタムでは逆にファブリックの面積が肩甲骨の辺りまで拡大された。これはシートを上下に長くスマートに見せる工夫が行われた結果で、ステッチに代わってパイピング処理が施されている点も見逃せない。

家族が快適に過ごせるよう、後席を中心に居心地の良さも向上した。幅600mm×高さ1,250mmの開口部を有する両側スライドドアのステップ高は345mmで、センターピラーにはグリップも装備されている。大半のグレードに備わっている電動スライドドアには全閉を待たずにクルマから離れられる予約ロック機能も採用。

リアシートにはスズキ初のマルチユースフラップが用意されており、位置と角度を調整することでオットマン、レッグサポート、荷物の落下を防ぐ荷物ストッパーの3つのモードに変えられる。センターアームレストも新たに設定された。

シートバックテーブルにはタブレットやスマホを立て掛ける際に重宝するストッパーを新設。また、モデルチェンジ前から採用されている天井サーキュレーターは静粛性が高められた。このほか、巻き取り式サンシェード、助手席シート下の取り外し可能なアンダーボックス、ボックスティッシュも入るインパネの引き出し式ボックスなど、快適装備と豊富な収納スペースは健在だ。

安全デバイスはミリ波レーダーと単眼カメラを組み合わせたデュアルセンサーブレーキサポートIIに進化し、全車に標準装備されている。右折時の対向車や右左折時の横断歩行者が検知対象に加わった。また、前後バンパーには超音波センサーが障害物との距離を測り、必要に応じて警告や自動ブレーキが作動する機構も全車に採用。高速道路で重宝するアダプティブクルーズコントロールはカーブ前で車速が抑制されてスムーズに駆け抜けられるサポート機能を含む。車線逸脱警報に加え、一部グレードにははみ出しを抑制する車線維持支援機能も装備されている。

コックピットは運転のしやすさと高い利便性を確保。信号待ちで重宝するホールド機能付き電動パーキングブレーキ、リムの左右部分が温まるステアリングヒーターはどちらもスズキ軽自動車初採用のアイテムだ。スピードメーターはデジタル化され、4.2インチの液晶インフォメーション画面が併設されている。さらに「ガソリンが減っています」「バックします」といった運転操作をサポートする音声案内機能も用意。

スマホ連携メモリーナビはドライブレコーダー連動機能、HDMI入力端子、スズキコネクトが追加されて使いやすさが向上した。スズキコネクトではアプリから空調やドアロック、ハザードランプなどが遠隔操作できるほか、駐車位置や運転履歴、車両の状態を確認することが可能だ。スズキの純正ナビはオーディオや車両情報などのメニューがゾーニングされていて国産車の中でもわかりやすく、直感的に操作できる点が評価できる。

NAモデルにはR06D型エンジン、新CVT、マイルドハイブリッド機構が採用されていてWLTCモード燃費でクラストップの25.1km/Lを達成している。この機構はアイドリングストップ状態からのエンジン再始動が静か＆スムーズに行われ、再発進の度にスターターモーターのキュルキュル音を聞かずに済む点が魅力的だ。ただ、長年にわたって使われているデバイスなので、モーターが加勢する時の静粛性向上を見せてほしいところだ。ロードノイズは抑えられているが、90km/h程度から発生するザワザワとした風切り音も改善を望みたい。

環状骨格構造の車体は超高張力鋼板の使用範囲が拡大され、運転席側のフロントインナーパネルにはスズキ初の1,470MPa材が使われている。980MPa以上の超高張力鋼板使用率は先代の16％から2％増えて18％に。構造用接着剤と減衰接着剤も使用されている。

乗り心地を向上させるための取り組みとして、後輪サスペンションのスプリングとバンプストッパーの入力荷重配分が見直された。これによって段差を通過した時の突き上げ（上下加速度）が25％低減。

2013年の初代デビューから10年を経て、スペーシアの累計販売台数は130万台を突破した。これはスペーシアが目指してきた楽しい雰囲気と広い室内空間が支持されてきた証と言えるだろう。快適アイテムが増えた3代目スペーシアは家族みんなに優しい軽自動車に仕上がっており、競争が激しい市場でも存在感を放つに違いない。